沈黙と葛藤(ハンターによせて)

「明日から/寝るな と言われても/オレは 眠くなる」
「食うな と言われても/腹はへる」
(中略)「言える事など/何もないのだ」
冨樫義博レベルE(上)』(集英社文庫)196・197頁より)

「沈黙!!」「それが正しい答えなんだ」(冨樫義博HUNTER×HUNTER』1巻 78頁より)

冨樫作品において、「沈黙」はひとつのキーワードといえる。
上記のシーンでは、主人公たちは善とも悪ともつかぬ存在や、大切さの度合いを比べられないものに直面していた。
この事態に対して、「沈黙」すること、選ばないことが正しい態度であるという意思表明がある。
善と悪、価値Aと価値Bが隣り合うとき、互いを排除しない、優劣をつけないという倫理がここにある。

それに対して、「沈黙」の内実である「葛藤」を描いたのが、
HUNTER×HUNTER』でゴンがピトーと対峙する場面だった(蟻編の274話、275話)。
恩人を害した者でありながら少女の命を救おうとしているピトーに対して、ゴンは混乱し、態度を決めかねていた。
ここでのゴンは、『レベルE』の板倉のような傍観者的な立場にない。自分のせいで危機に陥ったカイトを救おうと、王の城まで主体的にやってきた。また当然、ハンター試験のように第三者が何かの模範解答を求めているわけでもない。
ハンゾーに対して「お互いが納得できる方法を話し合おう」とあっさり言えた無邪気さも手放してしまった。


ゴンには背負ってきたものがあり、ここでは「沈黙」すること、選ばないということは不可能だ。
ゴンは、誰もが納得する回答を出す倫理的なヒーローでいることができなくなってしまった。結局のところ、彼は独善的になるしかない。そうしないと、前に進めないところにきてしまった。
覚醒しピトーを圧倒しながらも涙するゴンの表情も、葛藤を物語っている。

(このゴンの葛藤に加えて、王VSネテロの対立、人類の悪意が重なってくるあたりに読み応えがある。)

「沈黙」という「とりあえずの答え」に対して「そうはいっても…」と突き詰めている『HUNTER×HUNTER』はスゴい漫画だなあ、と思うのである。